思考の隙を経験で埋める『裏方名人』
ホームから別のホームへ、弁当を積んだワゴンをどのタイミングで移動させるのか。機転ひとつで駅弁の売り上げは変わると言う旭川の駅弁売り名人。もともとはネコ嫌いなのに絶滅種のヤマネコの繁殖プロジェクトに取り組む動物園の飼育員、年中全国を飛び回っている水質浄化のスペシャリストなど、その道のプロたちに密着するルポだ。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070326/121740/
『裏方名人』足立紀尚著 河出書房新社、1500円(税抜き)
仕事ぶりを確かめるために、著者は行動をともにし、コツを聞き出していく。あの「プロジェクトX」がNHKの大掛かりなスタッフワークで作り上げられたものなら、こちらは個人の目がとらえた、ささやかな経験の集積にフォーカスを当てている。
例えば、住宅地図の調査員。1軒ごとに世帯主の名前が記入された詳細な住宅地図のことは知っていても、どのようにして作られているのかは、そういえば知らなかった。
業界最大手「ゼンリン」のベテラン職員は、「調査員たちが1軒ずつ歩いて調べたものなんです」と答える。
ゼンリンの調査員は、紺の作業着風ユニホームに、足元はウオーキングシューズで、朝から夕暮れまで歩いて調べて回るそうだ。必携の道具は、画板にボールペン。怪しいものだと思われないために、腕には腕章もつける。
たとえ離島であろうとも、人が生活している場所であれば、調査対象となる。猛暑だろうが大雨だろうが、調査に出かけていく。
ゼンリンが抱えている調査員は2000人。道路や橋などの構造物と地形が書かれた白い紙の上に、建物と居住者の名前を書き込んでいく。情報の入手ソースは、表札や郵便ポストが手がかりというから、いたってシンプル。だから調査員は、ひたすら歩く。靴の消耗は激しく、靴の寿命と値段は比例すると、プロは言う。
百聞は一見にしかず。著者はさっそく調査に同行する。調査員の後ろから、ついていこうとするのだが、彼らは表札を調べながら記入しているにもかかわらず、うかうかしていると置いていかれそうになる。
「仕事の細かい点まではマニュアルにしようとしても、どうにも不可能なことなんです」
と、ベテランは言う。
例えば、道の両側に並んでいる家をジグザグに調べるのか、片側を調べてからUターンするのか。
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